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写真:カリオペ・ソウパキによる作品『ボス・レクイエム』の世界初演は音楽祭の2日目を飾った
(c)Angeline Swinkels

新しい音楽と出合う場所 ノヴェンバー・ミュージック・フェスティバル in Den Bosch

オランダ南部の緑豊かな町デンボスでは、毎年11月に一風変わった音楽祭が開かれています。その名もノヴェンバー・ミュージック・フェスティバル。今年も111日から10日までの10日間にわたって開催されました。その模様をお伝えします。

写真:ドゥドック四重奏団とブラバント合唱団
(c)WilliamvanderVoort

現代の音楽のためのフェスティバル


1993年に創立され、今年で27回目の開催を迎える同フェスティバルは、新しい音楽、すなわち現代の音楽を専門的に扱う音楽祭として国内外で知られています。音楽の新しさとは対照的に中世の街並みを今も残す歴史的なデンボス市内で約90のコンサートやイベントが開かれ、元クッキー工場のVerkadefabriekがメイン会場としてフル活用され、午前中から深夜まで人々の熱気で満ちていました。

 

新しい音楽が生まれる場所


同時代の音楽にこだわるフェスティバルというだけあって、同音楽祭は毎年数多くの作曲家に新曲を委嘱し、期間中に世界初演を行っています。今年、初演を迎えた委嘱作品は合計11に及びました。

まだ誰も耳にしたことがない新作が初めて演奏されるとき、客席には「一体どのような演奏になるのだろうか」という緊張感や期待感が漂います。同フェスティバルでは連日のように世界初演に立ち会えるチャンスがあり、実際に曲を手がけた作曲家とも出会え、フランクに声をかけて話をすることもできます。現代の音楽ならではのエキサイティングな体験です。


ドイツの現代音楽専門の合奏団であるアンサンブル・モデルンの演奏会では、女性作曲家二人の新作が演奏されました。トレンチコートを羽織ったソプラノ歌手のソリストの苦しそうな喘ぎ声が次第に叫びに変化し、古いラジオの音声のような不明瞭な音と混じる箇所が劇的なIris ter schiphorst-Assangeの作品『Fragmente einer Unzeit』に続いて、演奏者がヒソヒソ話す声が揃ったり入り乱れたりする音が活用されたトルコ人若手作曲家Zeynep Gedizliogluの曲『Night』が披露され、新しい音が舞台上で追及されるようすが聴く人を引きつけました。

なお、同フェスティバルに登場する女性作曲家と男性作曲家の割合はほぼ半々で、オランダらしく、ジェンダーの差を積極的に埋めていく明確な方針が見てとれます。

国内外の作曲家が新作を披露

今回、同音楽祭のメインアーティストとなったギリシャ・オランダにルーツを持つ女性作曲家カリオペ・ソウパキは、11月2日に新作『Bos Requiem 2019』を披露。ヴィオラ・ダ・ガンバなどを含むバロックアンサンブルが中心となって、深い暗闇と光や異世界を想起させるような響きを作り出しました。録音はこちらのリンクで聴けます。

https://www.nporadio4.nl/concerten/9317-bosch-requiem-2019

 

クロスオーバーに積極的に取り組むオランダのバロック・アンサンブル『ホーランド・バロック』は、ジャズのピアノトリオの共演で活躍しました。

一方、ベルギーの聖職者兼作曲家のクリス・エルブラントによる委嘱新作『Praise song of Reconciliation』は、ブラバント合唱団、弦楽クァルテットのドゥドック四重奏団、ハープ、フルートとソプラノ・メゾソプラノ・バリトン、パーカッションという編成で。非常にバランスのとれたハーモニーをプロテスタントの教会の中に響き渡らせました。キリスト教、イスラム教など宗教として分かれていても、描かれる神は共通のものだというメッセージが作品に込められています。


写真:クリス・エルブラントの新作では弦楽合奏団と合唱、独唱歌手が登場
(c)WilliamvanderVoort

時代を映し出す多様な表現


同フェスティバルでは、規制のコンサートやライブの形式に捉われず、音楽そのものの新しさだけではなく映像や照明、演奏場所に工夫がある演奏会があり、今の時代に合った表現は何なのかを探し求める試みがあちこちに見受けられました。

弦楽四重奏団モーリス・クァルテットは、2016年に書かれたゲオルク・フリードリヒ・ハースの『Ninth String Quartet』を演奏。平日のお昼時にも関わらず、100名弱の観客が見守る中、客席の中央に設けられた小さなステージで輪になって座っていた演奏者たちは、開演時間になると足元の小さな電灯を一つずつ消し、真っ暗闇の中で約50分間にわたって演奏を繰り広げました。膨らんだりしぼんだりする響きに耳を澄ませると、目には見えない音というものの中に閉じ込められたような感覚になり、演奏が終わってからしばらく浮遊感を覚えました。このように、普段オランダでほとんど演奏される機会のない曲が聴けることは同フェスティバルの魅力のひとつです。

 

町中のあちこちでミニコンサートが開かれる『アート・音楽の道』というイベントも注目を集めました。市内の小規模なホールやギャラリー、美術館の一室などで1時間程度の短い公演が一日に複数回開かれるので、チケットを買った観客はタイムテーブルを見ながら好きなコンサートを選び、各自が好きなように聴いて回ることができるという仕組みです。イギリスの前衛音楽を聴いた後、映像と録音を使ったパフォーマンスを観て、アラブの民族楽器のカヌムとチェロ、打楽器のトリオが奏でるジャズの要素を取り入れたオリジナル曲を聴き、夕方にはオランダの人気奏者によるハープのライブ……という、実に多彩なジャンルの音楽が一気に楽しめる一日が過ごせます。聴く人それぞれが自分の一日のプログラムを決められる自由さも魅力的です。

 

また、今年始まった新企画『ニュー・ミュージック・カンファレンス』では、ベテランから若手まで幅広い層の作曲家、演奏家、マネージャーや音楽祭のディレクターなど、国内外から音楽業界の関係者が一堂に会しました。電子楽譜の紹介や新進作曲家の短いプレゼンテーション、「どうやって正当な報酬を請求するか」といった内容のレクチャーまで、公用語のオランダ語ではなく英語メインで行われました。国際的な交流を盛り上げる場として定着していくことが期待されます。


写真:暗闇の中でモーリス・クァルテットの演奏に耳をすませる

1万人規模のイベントに成長

同フェスティバルは、27年前から常にその時代の先駆的な作曲家の音楽を取り上げてきました。

「音楽祭の持つ美学は27年前とあまり変わりませんが、ジャズ、ワールドミュージック、ポップスが少し増えました。コンサートの数は20から90、聴衆は1000人から1万人になりました」 とディレクターのベルト・パリンクさんは語ります。

 

過去の開催も含めて最も記憶に残っているできごとはと尋ねると、こう答えが返ってきました。
「4年前に80代の作曲家ヘルムット・ラッヘンマンを招いたとき、そして2年前にニューヨークからジョン・ゾーンと25人の素晴らしい音楽家を招いたときです。(開催期間中なので)今年のハイライトについて話すのはまだ気が早いですが、『Bos Requiem 2019』はその一つになるでしょう」と語ります。

 

クラシック音楽のバックグラウンドを持つ弦楽器の可能性については、「もちろん、今でも高いポテンシャルを持っていると思います。もちろん作曲者によりますが、もっと多くの奏法があるでしょうし、電子機器や演劇的な要素を加えていけるのではないでしょうか」と語ります。

 

多くのジャンルの音楽と人が交差する場所


通常のコンサートでは、音楽のジャンルによって年齢や服装などで客層が分かれがちですが、この音楽祭ではジャンルの違う音楽団体によるコラボレーションや分野を超えて活動する音楽家が多いため、色々な層の観客が客席に顔を揃えます。普段は交流する機会の少ない作曲家と音楽家、そして聴衆をつなぎ、混在した状態にすることは音楽祭の狙いのひとつのようです。

「新しい音楽というものは、ジャンルとジャンルの間に発展していくものであり、その場所でこそ素敵なことが起こるのですよ。観客の皆さんにはオープンマインドでい奏を聴いてほしいと思っています」とディレクター。

 

アンサンブル・モデルンの公演に来ていた聴衆の50代オランダ人女性は、自身もハープシコードを学んだ経歴を持っています。

「この音楽祭にはもう何年も通っています。何よりもここの雰囲気が好きですし、有名な現代音楽アンサンブルが聴けるチャンスですからね。私の他にも、聴きに来ている人の中には自分でも現代音楽を演奏している人が多いのですよ」

 かといって、知識豊富な聴衆だけがターゲットというわけではないようです。新作が演奏される際には、ミニクレチャーがあったり、作曲の背景について書かれたプログラムが配布されたり、その年のメイン・アーティストの言葉が詰まっている手のひらサイズのミニブックが1ユーロで販売されていたりと、興味さえあれば多くの情報が得られるようになっていました。


写真:演奏会場の一角で販売される小冊子で、それぞれの作曲家の世界観に近づける

同フェスティバルは、普段聞き慣れないジャンルや作曲家以外の音楽に興味を持つきっかけになります。次回の『ノヴェンバー・ミュージック・フェスティバル』でも、多くの発見が待っていることでしょう。来年11月6日から15日に開かれる予定です。

取材・文:安田真子

プロフィール:オランダ在住。クラシック音楽について執筆しているライターでアマチュアチェロ弾き