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現代アメリカのバイオリン製作を牽引する職人


レイモンド・シュライヤー(Raymond Schryer)はカナダで製作を行うバイオリン職人。2002年にはVSA国際コンクールのチェロ部門で金賞を、2003年にはクレモナ・トリエンナーレ国際コンクールのチェロ部門で金賞を獲得するなど、現代の優れた製作家のひとりとして地位を確立しており、昨今はヴィニヤフスキーやトリエンナーレ、VSAなど、数多くの国際製作コンクールの審査員を務めています。
2017年12月某日、同氏が来日。文京楽器を訪れた際に、製作に関するお話を伺うことができました。



ーー製作に関する哲学を教えてください。

ストラディバリなどの名人の技をそのまま再現することです。”New Stradivari Workshop”、つまり、300年前に存在したはずの、作られたばかりの新作のストラディバリを、そのまま現代に蘇らせたいのです。

そのために、パフリングを含む縁の仕上げやスクロールの彫り、伝統的なニスの調合など、彼の最高の技術に近づくための技術と知識を学ぶことに加え、科学的なアプローチを積極的に取り入れています。たとえば、名器のアウトラインをなぞるだけでなく、表板、裏板の隆起、その内側の隆起を含め、CTスキャンにより計測した数値を用いて製作を行います。歪みのない、正確で美しいラインを実現します。


ーー他に科学的なアプローチで行っていることはありますか。


ストラディバリの名器を実際にタップするなどして振動させた際の音を録音し、その振動数や音量などの様々な数値を計測し、データ化します。それをある方程式(Mathematical Equations)に当てはめ、理想値を設定するのです。

自身の楽器製作の工程において同じように数値を計測し、その理想値へ近づけていく。材料の選定の際には、密度、そして音速の計測が欠かせません。いくら外観が美しい杢をもったスプルースも、音速数値が適切でないものは決して用いない。こうした科学的、数学的な取り組みも私の製作活動のひとつです。



写真:レイモンド氏がチェロの裏板をタップし音を計測する様子(The Strad誌 13年11月号"Meet Your Maker"より抜粋)

ーー1週間かけて駒、魂柱、ペグなどのフィッティングパーツのセットアップを行うと聞きました。

そうです。最良のセットアップを施すまでが製作の仕事だと考えています。例えば駒について、良質な材料のものを取り寄せ(私はDespiauを良く使います)、その振動数を計測し、適切な数値を記録するように成型します。高さや厚みなどのメジャーメントを基本とし、プラスアルファの客観的な数値情報を用いながら、納得するまで複数枚仕上げるのです。


適切なセットアップが楽器の音を正しく導きます。せっかくの良い楽器も、セットアップの品質が低く本来の力を発揮できていないケースもしばしば見かけますね。



ーー今まで多くの名器を研究されてきた中で、最も感銘を受けたバイオリンはなんですか。

ストラディバリの1715年製 Titian、1716年製 Messiahが挙げられます。が、様々な個体にそれぞれの良さがあると思います。

例えば今回日本に持ってきたバイオリンはストラディバリを基に製作したものですが、アウトラインはMessiahを、隆起は1704年製 Bettsのものを採用しています。様々な個体のいいとこ取り、といったところでしょうか。全体の調和が保たれていることが大事と思います。

ガルネリ・デルジェスのモデルも好きで、例えば1742年製 Lord Wiltonなどのモデルを良く製作します(これは音質的に非常に成功しており、すでにバックオーダーを受けています)が、オリジナルのスクロールは無骨で好きじゃない(笑)。ストラディバリをベースにした美しいスタイルのものに変えています。

チェロはフランチェスコ・ルジェリ。ボディレングスは746mm、ロワーバウツは448mmの、非常に豊かな音色と音量をもつ、最高の形です。



ーー今後の活動について教えてください。

人生は長い。まだまだ学ぶことがたくさんあります。様々な人と関わり、教え、教えられること、フィードバックを与え、得ることが、私にとって大事なことです。

例えば、アメリカ・オーベルンのワークショップをすでに20年続けていますが、世界中の職人が集まり、技術と情報を共有できる環境があることを、とても幸せに思います。このワークショップの参加者からコンクールの受賞者も多く出ています。こういった活動によって、全体の製作レベルが高まり、より良い弦楽器製作につなげていきたいと考えています。







自身もバイオリン演奏を嗜み、オーケストラで室内楽やシンフォニーに取り組むことが趣味であるレイモンド氏。最近は製作や研究、コンクール審査など、多忙なために音楽の時間が作れていないことを残念がっていました。芸術性を求める感性に、技術を磨く努力、そして客観的な視点でものを見極める工夫が、質の高い楽器を生み出す彼の強さなのでしょう。