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オーバリン・サマーワークショップ2019

文京楽器では欧米エキスパートとの技術交流や職人の海外研修を通して、高度な修理技術、最先端の専門知識の習得を奨励しております。
今回は工房長の岡本が、アメリカ合衆国オハイオ州でのオーバリン・サマー・ワークショップ(以下、O.S.W.)に参加し体験してきた内容についてご紹介いたします


O.S.W.はアメリカの弦楽器製作者協会VSA(Violin society of America)が主催する夏期集中セミナーです。その内容は以下6項目で構成されています。

①Violin Making(バイオリン製作)
②Bow Making (弓製作) 
③Restoration Violin(バイオリン修復) 
④Restoration Bow(弓修復)
⑤Bass Making(コントラバス製作) 
⑥Acoustics(音響学) 

講師には世界のトップ・メーカーや、優秀なレストアラー(修理職人)が招かれ、参加者はそれぞれ題材となる楽器や弓を持参し、講師やメンバー同士でのディスカッションに基づいて各々プロジェクトを進めます。
参加するには技術レベル、メンバーからの推薦、職業歴などに基づいた事前審査があり、選抜された職人のみが参加できます。また全行程が英語で行われる為、当然ながら語学力も必要となります。


素晴らしい講師陣に学んだ、6日間の集中講座


私が参加したRestoration Workshopは、VSA副会長Jeffry Holmes氏を主催者に、講師にはボストンの老舗弦楽器店 Reuning&SonのEliane LeBlanc氏、20世紀の名工 F.サッコーニの最後の弟子であるRolland Feller氏など多くのスペシャリストが名を連ねました。

まずは自己紹介を兼ねて、各自が持ち込んだ楽器の修理プロジェクトを発表し講師からアドバイスをもらいます。(もちろん、英語でのプレゼンです。。。)作業スペースは24時間いつでも使えるのと、会場が大学の美術科棟ということもあり、マシーン関係も非常に充実しています。やる気さえあればいくらでも学べる環境です。

計画についてのディスカッションの後、それぞれが集中して作業に取り組みます。途中、講師による新しい修理技術のデモンストレーションや、スライドを使った講義などが開催されるので、関心のあるセミナーに自由に参加できるのも大きな魅力です。

またO.S.Wでは「ビジネスは一切厳禁」というルールを敷いているにも関わらず、アメリカ国内の弦楽器ディーラーや材料・道具関係の企業からも毎年協賛を得ており、貴重なオールド・イタリアンバイオリンが本セミナーの為に無償で提供されるなど、業界のサポートも充実しております。
一般的にはアメリカは競争社会のイメージが強いかもしれませんが、一方で成功者はその知識や経験を伝え、より豊かで良い社会を作らんとする、そうしたプロテスタント的な考えに基づいた教育理念も持ち合わせています。特に修理技術を教えるということは、自らの手の内をある意味で晒す部分もありますが、そこをあえてオープン化し共有するという考え方に新鮮さと共感を覚えました。


オーバリン大学とは

クリーブランドホプキンス国際空港から車に揺られこと約30分、閑静な住宅街の中にオーバリン大学はあります。

1833年創立、オハイオ州きっての名門校であり、『USニューズ&ワールド・レポート』誌の大学ランキングでは、リベラル・アーツ・カレッジ部門のTop25を常に維持しております。
我々の会場は美術科棟でしたが、音楽科も有名で、米国内のどこのプロオケにもオーバリン大学出身者がいることで知られています。

アメリカの各大学では夏休み期間の5〜8月にかけて、さまざまな夏期セミナーを開催しています。 大学生は夏休み中、大抵の何かしらのセミナーに参加し、寝食を共にしながら色々な出会いを楽しむ、といった文化があるようです。そうした文化的背景を表すように、O.S.W.の参加者もおよそ90%がアメリカ人です。「知らない人と朝夜食事を共にし、風呂トイレは基本共用」という一時の共同生活を、彼らは学生時代を思い出して懐かしい!と楽しんでいるようでした。

公園を歩けばリスに出会うほど、自然豊かで長閑なオーバリン。唯一難点があるとすれば、オーバリンはアメリカでも珍しいほどの田舎町ということ…!マクドナルドもなければコンビニもない、自販機すらない環境なので、商店が閉まる‪7時‬以降はジュース一つ買えなくなります。日本での便利な暮らしに慣れきってしまっていると、カルチャーショックを受けるかもしれません。
見方を変えれば、誘惑するものが一切ないので、プロジェクトに集中できるという点では素晴らしい環境です。

▽オーバリン大学オフィシャルサイト
https://www.oberlin.edu/


何をすべきか、自分で見極めることが大切


修理方法についてどうすべきか迷い、質問した私に、恩師でもあるJeffry Holmes氏はこう答えました。
"(修理方法に)ルールはないんだ。色々やり方はあるけど、どれも正解だよ。トモジロウ、お前はどうしたいんだ?"

"(修理を)一つやれば全部やらなきゃいけなくなる、(どこまで手をかけるか)それを決めるのは君だ。"

彼が伝えたかったのは、その修理のゴールをどこに設定するのか、完成形をしっかりイメージすることの重要性だったのだと思います。修理方法はあくまでもその過程にすぎない、ただ過程を工夫することで、今までよりも早く、美しく、正確にゴールへとたどり着けるのは明らかなので、それを共有することがO.S.W.の意義なのかもしれません。

アメリカは自由の国だからこそ、自己を示さないと誰も認めてくれない厳しさがあります。業界で名を知られるレストアラー(修理職人)達は発想もスキルも突き抜けており、本当にすごいのですが、彼らの本当の強みは「この楽器に何をすべきか」を見極める力なのかもしれません。

オーバリンでの6日間は、私にとってテクニックだけでなく、新しいインスピレーションを得ることができた新鮮で充実した経験となりました。これからも一人の修理職人として、ここで得たものを活かしていきたいと思います。