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写真:1700年頃に描かれたミッテンヴァルトの風景 ("Mittenwald 1700 auf einem Gemälde im Fürstengang Freising , wikipedia)

今回はドイツ、ミッテンヴァルト派の始祖であるマティアス・クロッツについてご紹介いたします。ミッテンヴァルトは、陸路においてはオーストリアと北イタリア間を繋ぐブレンナー峠の要所として、また水路ではイーザル川を利用した筏による輸送でミュンヘンなど大都市との盛んな交易により、豊かに繁栄しておりました。

特に北イタリアの最大都市、ヴェネツィアとの関係性はバイオリン製作史においても重要なポイントであり、ヴェネツィア派の弦楽器製作者として知られるカイザーやセラスなども、ドイツから移住しヴェネツィアに工房を開いたことで有名です。


■ 生い立ち

写真:クロッツ像 (PDenkmal zum Geigenbau, Wikipedia)

ミッテンバルトにおける歴史ある製作一派の始祖、マティアス・クロッツは1653年にミッテンバルトに生まれました。彼は北イタリア、パドゥアの弦楽器職人ジョバンニ・ライリッヒの工房に弟子入りし、修行を積みました。1678年に師より一人前の職人としての認可を受けますが、クロッツは18世紀初頭まであまり積極的な製作活動を行いませんでした。

クロッツを理解するうえでの鍵となるのは、彼らの作風がこれまで考えられていたようなヤコブ・スタイナーの影響ではなく、現在ではむしろニコロ・アマティに強く影響を受けたとされる学説です。

前述のライリッヒ一族は、1683年から1685年にかけてアマティ工房に弟子入りし、製作を学んでいたことが記録されています。彼らがアマティのもとで学んだ背景には、当時のパドゥアではアマティスタイルの楽器が流行していたためだと、考えられております。

また、当時のパドゥアは、ヴェネツィア共和国の領土でした。「アドリア海の女王」と称賛されたヴェネツィア共和国は、海上貿易によって世界各地から様々な素材、顔料がもたらされ、それらはバイオリンのニス材料に用いられました。 ヴェネツィア派の特徴である色味の濃いニスは、こうした背景で入手した顔料をふんだんに使用していたことが伺えます。

クロッツの製作した楽器は個体差はあるものの、全体的に色味の濃いニスが塗られているものが多く、ヴェネツィア派の作風から少なからず影響があったことが伺えます。

■ 作品の特徴

写真:Violin by Matthias KLOZ, 1725 (IN FOCUS, the Strad SPECIAL EDITION, 2013, page 86-87)
ニコロ・アマティのグランドパターンに影響を受けたモデルを用いております。アウトラインはアマティの曲線美を意識した作りになっていますが、一部にやや直線的なラインが見られる箇所には、彼独自のセンスを感じる事ができます。

コーナー部の仕上げは非常に丁寧で、パフリングには楓材が用いられています。楽器の外周からパフリングまでの距離が長めで、エッジの彫りが深く仕上げられています。 アーチの形状はアマティスタイルの特徴である、外周付近は平たく、楽器の中心に向かって隆起が高くなる形状を、大まかながら良く捉えた作りになっています。
外観では上記のように、アマティを意識して忠実に再現しようとした様子が伺えますが、内部の作りを見ると、クレモナ派の工法との違いが見られます。 通常、アマティやストラディバリなどクレモナ派は、ブロックに溝を掘り、ライニングの先端を差し込んで仕上げますが、クロッツの場合、ライニングはブロック内部に差し込まず、表面に接する程度で接着するだけで仕上げております。
マティアス・クロッツは90歳まで生き、1743年に亡くなりました。彼には3人の息子、ゲオルグ、セバスチャン、ヨハン=カールがおり、一族の次世代を担う製作者として活躍しました。そして、彼ら一族のスタイルは、後世のミッテンヴァルト派の製作者たちへと受け継がれました。


■市場における評価

マティアス・クロッツはドイツオールド作品の中でも特に評価の高い製作者であるといえるでしょう。アマティを模した構造から成る、繊細で美しい音色は気品があり、実力の高い弦楽器として古くから演奏家に愛好されてきました。

オールドバイオリン、特にイタリア製の作品が非常に高価となった現代において、こうしたドイツの名工達の作品群の中にも名器のエッセンスを感じさせる楽器が存在し、それらを再評価することが、将来の演奏楽器の選択肢を広げていくことにつながるのかもしれません。

参考文献:
■The Strad in focusより“MATTHIAS KLOTZ”written by PHILIP KASS
■Geigenbaumuseum Mittenwald“The history of violin making in Mittenwald”

文:窪田陽平