水辺で響く「運河音楽祭」のコンサート in Amsterdam
オランダ・アムステルダムを象徴する風景といえば、運河のある街並みです。このアムステルダムで、街ぐるみの企画として25年前から盛夏に開かれている音楽祭は、その運河にちなんで「運河音楽祭(Grachtenfestival)」と名付けられています。
今年は8月12日から21日にかけて、アムステルダム市内のあちこちで、主にクラシック・ジャズの公演が合計240以上も催されました。
舞台となるのは、運河音楽祭の名前の通り、運河沿いの建物や公園、街中の広場などが中心です。水辺の開かれたスペースを活用するという、オランダならではの工夫が光ります。
かしこまらない開放的なスペースで開かれる屋外コンサートも多数あり、ごく気軽に楽しめる敷居の低さが魅力のひとつです。多くは1時間程度の無料もしくは20ユーロ以下(3000円弱)の演奏会で、平日朝から夜まで幅広い時間帯にわたって開催されました。
音楽祭に先立って用意された映像がこちらです。
運河をめぐるボートの上で、レジデンス・アーティストの若手チェリストがガーシュウィン「ポーギーとベス」より『サマータイム』をソロで弾いています。水面の高さから見たアムステルダムの雰囲気が伝わるのではないでしょうか。
若手がアイディアと腕を競い合う場
同音楽祭の出演者は、多くが
30代までの若い世代の演奏家や作曲家、俳優などのパフォーマーたちです。
留学生や移住者の多いアムステルダムらしく
国際色豊かな顔ぶれも、音楽祭のプログラムの多彩さに大きく影響しています。オランダ以外の出身者も多く、自身のルーツを活かした魅力的なプログラムを組むアーティストが少なくありません。
また、毎年1組選ばれる
運河音楽祭賞の候補者にノミネートされた3名がそれぞれ企画した公演を通して、翌年の
レジデンス・アーティストの座を勝ち取るためにその内容の素晴らしさを競うという、エキサイティングな側面もあります。
翌年のフェスティバルでレジデンス・アーティストになれば、公演を自由に企画することができます。自らのアイディアで、プログラムや開催場所を選んだり、批評家や国内コンクールに携わる指導者などの音楽関係者からのアドバイスを半年ほど受ける権利を得られたりするのです。
意外な場所でのコンサート
今年のレジデンス・アーティストは、チェリストの
アレクサンダー・ワレンベルクでした。
ワレンベルクが企画・出演した公演のうち1つは、
アムステルダム国立美術館(Rjiksmuseum)の中央を通り抜ける
通路という特殊なスペースを活用して、シューベルトの弦楽四重奏コンサートを開催したコンサートがあったのですが、土曜21時というオランダにしては遅い時間帯にもかかわらず、チケットは完売の人気公演となりました。
以前、美術館改築時に通路の閉鎖が危ぶまれた時、市民が立ち上がって抗議活動を行ったほど、
アムステルダム市民にとって特別な場所でのコンサートには、大きな注目が集まったようです。
普段は風雨の激しいオランダですが、好天の多い8月ならではの
野外コンサートも多数開かれました。
同連載で以前にもご紹介した
若手弦楽四重奏団のアダム・クァルテットも、教会や公園でのコンサートに出演。
写真を見ると分かるように、
聴衆に四方取り囲まれるという珍しいセッティングで、ハイドンからジョン・アダムズ、オランダの若手作曲家の現代曲まで幅広いレパートリーを披露しました。
多彩なロケーションは市の協力で実現
アムステルダム市の全面協力によって、
運河や広場などの公共空間、教会などの歴史的な建物、スタジアムまでコンサート会場として使えることも、この音楽祭の特色のひとつです。
聴衆は、普段コンサートホールで聴くクラシック音楽を、美術館の吹き抜けの通路や緑豊かな公園の一角でも耳にすることになります。
ステージと客席の距離の近さも、普段とはまったく違うものです。
オランダでは通常でも若手プレーヤーへの喝采は盛大ですが、
手が届くような距離で若い演奏家たちの熱演を鑑賞すると、より一層魅力が伝わり、応援したくなるのではないでしょうか。
新進プレーヤーたちを応援
同音楽祭の主眼は、
若手プレーヤーを広く紹介し、音楽家としてのキャリアをサポートしながら、街のあちこちで
多くの人が音楽を楽しむ10日間を実現すること。今年は
開催25周年を記念して、初日と最終日には屋外の特設ステージで、音楽で街を盛り上げました。
運河沿いだけではなく、本当に
運河の上に仮設のステージを作ってしまうのだから驚きます。
最終日には、
自家用ボートで水面からステージに近づいて楽しむ人や、運河沿いのカフェから眺める人、橋の上や広場に集まって立ち飲みしながら躍る人々など、ちょっとしたパーティのような状態。ちょっと混沌としてはいましたが、
アムステルダム市から市民への『音楽のプレゼント』という言葉の通り、市民が皆で分かち合える音楽という贈り物を楽しんでいました。
文 安田真子 写真 Melle Meivogel (最後の1点をのぞく)