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バイオリン商 デビッド・ローリーの回想録
第12話 謎の名器・その2

しばらくして、我々はその家を辞した。馬車での帰途、ガン氏は事情を説明し始めた。

彼の名はバイヨといい、彼の父はフランスの最高のヴァイオリニストであった。彼自身はピアノの教授をしていたが、他の沢山の人と同様に、若くして世渡りの術を身に付けていた。その主な考え方の一つは、何年も働くだけ働いて、慎重に貯蓄し、それを何らかの”物”への投資に向けるべきだというものである。
写真:"Charles Nicolas-Eugene Gand "Reference to ""nicolas LUPOT Ses contemporains et ses successeurs" , Sylvette Milliot, 2015

その投資が適切であれば”物”自身から所得が得られるという考え方だ。もし信頼出来る筋から良い楽器を購入すれば、価格は絶えず上昇しているし、又、今後も上昇し続けるだろうということを知っていたのだ。従って、父のヴァイオリンも売らずに保存しておこうと考えたのだった。

彼は、自分が引退するころには、楽器の値段は今の四倍になるだろうし、さらに、貯蓄による金利所得があれば、楽隠居が出来るだろうと計算していたのであった。このもくろみは、彼の計算通り順調に運んだ。

これまでもそのヴァイオリンを売ってほしいと度々言われたが、時期到来まではと拒み続けてきたのであった。やがてその時期がきて、買い主も爵位のある大臣の息子に決まった。その人はこのヴァイオリンを手に入れる為に、時期を熱心に窺っていた。しかしバイヨ氏が、当時としては途方もない額を要求したので、困った事態になってしまったというわけだ。何とバイヨ氏の要求額は、30,000フラン(1200ポンド)であった。

この額は、買い主となるかもしれない人の息の音を止める程のものだった。

彼は、「それは冗談でしょう!!かつて一本のヴァイオリンにその様な価格は聞いたことがありません!」と言うのが精一杯であった。しかしバイヨ氏は、「このヴァイオリンは父の所有物であり、他のいかなるヴァイオリンより価値が優れているのです」さらに、「あなたは、何度も私に書いてよこした手紙の中で、値段は問題ではないと言ってきたてはないですか」と言った。

買いたい一心の買い主は、「その様な額は考えてもみなかったし、だいたいこの楽器を欲しいと思ったから、フランスではごく当たり前に使われる美辞を書いたに過ぎないのですがね」と釈明するのだった。しかし、バイヨ氏は頭のきれる人だったので、こう切り返した。「今までこのヴァイオリンを買いたいといった人には、誰にても同じ値段を言ってきたが、この額について何の異議も受けたことはなかったですよ」

すると、何としてもこのヴァイオリンを手に入れたいと思っているその人は、バイヨ氏が思ってもみなかった要求を提示してきたのだった。

第13話 〜謎の名器・その3〜へつづく