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BG Films サイドストーリー 1

構想から一年半、文京楽器のミッションを体現する短編映像作品集BG Filmsが遂に完成しました!着想から撮影、そして作品完成に至るまでの苦労や背景を、サイドストーリーとしてお届けします。

BG Filmsのプロデューサー役を務めた堀酉基(ほりゆうき)に話を聞きました。

まず、短編映像集を作ろうと思い立った理由を教えて下さい。

スマホが普及して、私たちが毎日受け取っている情報量は、信じられないほど多い。そんな中、文京楽器の活動を空気まで含めて伝えられるのは、総合的に表現できる映像かなと。「作ってみたい!」という想いはずっとあったんですが、コストも高くて…機材の進歩もあってここ数年でグッと製作しやすくなった。私達のような零細企業でもクオリティに納得できるものが可能になりました。今回の撮影も、ビデオカメラではなく、全て一眼レフのカメラで撮影してます。それも全編4K画質です!

4K画質って何ですか?

私も詳しくはわからないですが、要するに動く高解像写真。動画で撮っておいても、後で写真に切り出せるクオリティだそうです!詳しくはググって下さい(笑)

今回の撮影では、映像監督にイギリス人のダニエル・レインさんを迎えています…

そもそも「動画を作ろうよ!」と話を持ちかけてきたのは、ダンさん(=ダニエル・レイン氏のこと。)なんです… ダンさんとの馴れ初めを話しますと、出会いは2015年秋に遡ります。アンティーク・バイオリンの仕入れのため、トレードの中心地であるロンドンを訪れていました。インターネット・オークションの大手タリシオのロンドン支店を訪ね、CEOのジェイソン・プライスさんから次回オークションに出品予定のバイオリンを見せてもらっていました。 その傍でカタログ用の写真撮影が行われていました。タリシオの写真クオリティは世界でもトップレベルです。当時、文京楽器の写真撮影のクオリティを上げようとノウハウに興味を持っていましたから、思い切って写真を撮っていたフォトグラファーに声をかけました。それがダンさんでした! 話が進むうちに、その夏にアーティストの妹さんがイベントの為に来日、その撮影ために日本に来るという。じゃあせっかくだから一緒に何かしようと意気投合。そこから不思議な関係が始まったんです。

じゃあ、最初は写真撮影から始まったんですね。

その夏にダンさんが日本に来ることになりました。文京楽器に縁のあるアーティストのポートレートや広告やウェブページに使えるブツ撮り写真を撮りました。かねがね、欧米の写真撮影に対するアプローチは興味がありました。ポートレートは陰影があって油絵のようだし、料理番組もBBCが作ると何か違いますよね。日本的な分かりやくて説明的なアプローチもいいけど、人やモノの素晴らしさを伝えるには別の表現もあっていい。

それでまた翌年も日本に来ることになった…

写真の仕上りにはすごく満足したし、何よりダンさんと仕事するのは楽しかった。ダンさんも日本をとても気に入ってくれて、来年は奥さんと子供を連れてバケーションくるついでに仕事しようという話になりました。 2年目は、文京楽器がちょうど70周年だったんです。会社の社長をやってみると、ひとつの事業が70年続くのは至難の業で、様々な人の想いと努力に支えられています。それを表現したかったので、お世話になっている人を呼んでちゃんとしたパーティをやりました…ダンさんには会場で撮影してもらったり、過去に販売した名器の写真を撮ってもらいました。彼の素晴らしい写真で記念のヒストリーブックを作りました。

ところで、ダンさんってどんなフォトグラファーですか?

カメラマンって基本体育会系だと思いませんか?機材も重いし、段取りの速さが命の部分がある。そんな中でも、特に野生の勘に優れている。アフリカやアジアの撮影で危ない目にもあってるから(笑)撮影のスピードはめっぽう早いし、撮れ高は膨大。 でも、最初はデザイナー志望だったから、アートの部分は完璧に押さえている。最初に絵作りを決めて、後はとにかく撮る。写真を作品だと思ってるから、編集で手を入れて、最終的にはオリジリティ溢れる形に仕上げてきます。
http://pacote.co/

今回、写真から映像作品になった経緯を教えて下さい。

昨年の3月にロンドンに行った時、ダンさんと会って今年も何やろうかみたいな話になりました。最近はカメラで4K画質で動画が撮れるから、是非動画をやらないかと言う。どうせなら営業プロモーションみたいなものじゃなく、コンセプトもしっかりした映像作品って言えるものをやろう。あっと言う間に構想はまとまりました。メイフェアのホテルのバーで話してましたが、多分30分かかってないと思います。 仕事って丁寧に取り組んでルーティーンを極めていく部分と、それを平気でぶっ壊して「同じこと絶対やらないぞ!」って息巻いてる部分が共存してないと面白くないでしょ。 数ヶ月後、ダンからストーリーボード(絵コンテのようなもの)が届きプロジェクトが始動しました。

その時話した内容はどんなものだったんですか?

文京楽器のミッションにビジョン、これまでの歴史を話しました。 文京楽器には70周年を経ても、変わらない遺伝子がある。それはモノづくりとプレイヤーに対する想い。プレイヤーが喜ぶ、絶対的に良いものを作りたい。バイオリンはもともとヨーロッパのものだけど、本場を追い越すつもりでやっている。そうでないと追いつかないし認められないから。だから文京楽器のビジョンは「日本発、世界の弦楽器ブランド」。 そして、文化的にも重要な国際都市・東京で老舗弦楽器専門店として楽器、弓のディーリングや、鑑定や査定、修理・修復など専門的な分野で、求められる役割を日々果たして行く。そうして蓄積されたノウハウが、還流してモノづくりに生きる。今後は逆にモノづくりで得たノウハウがエキスパートの分野に還流する。この二重らせん構造が文京楽器の根幹だと。 そして、文京楽器が何の為に努力するかというと、プレイヤーの喜びのため。ここで言う喜びは、快楽ではなくベートーベンの歓喜です。「生きてて良かった…人生って素晴らしい!」という価値観に文京楽器は貢献していくんだと…

ちょっと理念的で難しい気もしますが…

ダンさんは70周年のパーティーにも参加して、これまでに十分に議論を重ねて来ているので、内容をすんなり理解してくれました。じゃあ、現状を踏まえて、楽器作りと弓作りで音楽家を支えている三角構造を意識せるような連作仕立てにしようということになりました。
秘密兵器スライダーの入ったケース

そうしてダンさんが遂に来日、ロケでは、東京だけではなく、小田原や五箇山にも、出向いたそうですね…

はい、ダンさんを喜ばせてやる気にさせようと言う気持ちもあって、東京だけでなく、小田原と五箇山ロケも敢行しました。外国人にいかにも受けそうでしょ(笑)

今回の撮影では秘密兵器があったとか。

ダンさんが”スライダー”を持ってきました。成田空港からスノーボード大の荷物が届いたんですが、それがスライダーでした(写真)。カメラがスライダー上を等速度で1メーター程動きます。この少しの動きで、とてもスケール感のある映像が撮れます。「バイオリンメーカー」で製作過程のバイオリンがワークベンチの上にあって映像が横に流れるシーンがありますよね。他にも「ミュージシャン」のカルテット演奏の導入にも使われています。

五箇山ロケは大変だったと聞きました。その苦労を教えて下さい。

本当に素晴らしいロケーションで、満足の行く映像が撮れました。しかし、ダンさんのこだわりには驚きました… イメージが頭の中で固まっている人は、迷いがないので仕事が早い。でも、イメージがあるので、その通り行くまで徹底する。

「ボウ・メーカー」(大瀬国隆氏ドキュメンタリー)の冒頭は、赤とんぼが飛び立つシーンで始まります。ダンさんは五箇山の自然が象徴的に現れるシーンが頭の中にしっかりあって、それをどうしても撮影したかった。でも相手は自然、都合良くいくはずがありません。五箇山中を回ったら、トンボがいる田圃があって、トンボが止まりそうな少し長めの稲穂がある。それまでは、色々と追いかけて上手くいかなかったので、フレームを決めて待つことに。途中で雨が降って来て、もうダメかと思ったら奇跡的にトンボが止まってくれて良いタイミングで飛び立ってくれて…やっとOKが出ました!
また、「ボウ・メーカー」には様々な音が入っているのですが、その音の収録にも五箇山を駆け巡りました。大瀬さんが工房の裏手の川を眺めているシーンでお寺の鐘がタイミング良く鳴っています。これも大変でしたね。どうしたかは想像に任せます(笑)

五箇山では、熊汁を食べたと聞きましたが?

はい、熊汁いただきました!熊汁はかつて秘境だった五箇山の貴重なタンパク源です。最高のもてなしで迎えていただきました。味ですか…全然匂いは無く、さっぱりしたスープ。ダンも美味しいってお代わりしてました。それに、大瀬さんの奥さんは料理ともてなしの名人。今は大瀬さんの工房の向かいで喫茶店をやってます。コーヒーも美味しいし、栃餅のワッフルは絶品です。五箇山にいくなら是非立ち寄ってみて下さい。

五箇山は結の文化(集落での共同作業のこと。合掌造りの藁葺き屋根の張り替えが有名)があって皆知り合い。大瀬さんが頼めば、味噌、お酒、蕎麦や岩魚など、皆んなどこかで繋がっている。合掌集落もどこか懐かしい。生まれ育った訳ではないけど、この里山の風景は、DNAレベルでの日本人の原風景という気がしてならない…普段はそうした感じからは真逆の東京を中心に生活しているので、本当に心が和んで心が洗われます。

神楽のシーンは印象的ですね。

神楽の収録は撮影用に特別にやってもらいました。大瀬さんは、こきりこ節保存会の会長でもある。その権威を最大限利用しました(笑)。大瀬さんの意識には、西欧文化のエッセンスであるバイオリンの弓を作ることと、1000年以上前から受け継がれている伝統芸能を継承していくことに境がない。単純に言うと、どっちも大瀬さんが好きで生涯をかけて取り組んでいるものです。そんなニュアンスを象徴的に分かってもらうには、神楽のシーンは絶対必要です。初めて見た人は何の動画なんだと不思議に思うかもしれませんけど… ちなみに、女踊りを披露している女性の一人は、大瀬さんの娘さんなんですよ。

弓職人 大瀬国隆氏のホームページはこちら

小田原でのロケはどうでしたか?

当初小田原でのロケは「ボウ・メーカー」の一部で使用する予定だったんです。ダンさんも大瀬さんの生徒がいる学校くらいにしか考えていなかった。でも、行ってみたら製作現場独特の雰囲気が気に入って、色々な工程を撮影し始めました。弓作りは時計と関係があって、機械を使用する工程があり、アルシェではそれを専用機に置き換えています。専用機が独特の動きをするのが面白かったようです。結局製作過程を網羅するような形になり、撮れ高も一本のフィルムができるくらいになったので、番外編として「ボウ・ワークショップ」も作ることになりました。結果として「アルシェ」のメーカー哲学が表現できたので良かったと思います。

専用の機械や工程が良くわかりますね。

正直、見せすぎじゃないかと言う声も社内にあったんです。でも、私はそれで良いと思いました。プレイヤーに製造過程を見ていただくことは信頼関係としても重要です。本当に面白い映像に仕上がったと思います。

(つづく)
短編映像作品集 BG Filmsはこちら
http://www.bunkyo-gakki.com/library/bg_films