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写真:コンセルトヘボウ前にて。1985年入団で現在首席奏者を務める波木井賢(右)と2010年入団で副首席奏者の小熊佐絵子(左)

ヨーロッパの旬な弦楽事情をお届けする連載 ヨーロッパ弦楽ウォッチ。今回は今年創立135周年を迎えるオランダ王立オーケストラ、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団をとりあげます。

同楽団は拠点とするアムステルダム市内のホール「コンセルトヘボウ」の素晴らしい響きで育まれた音色を誇り、聴衆を魅了しつづけています。メンバーはここ10年ほどで国際化が進み、現在20か国以上から集った演奏家で構成されています。日本人奏者の方も何人も在籍している中、今回はヴィオラの首席・副首席奏者のお二人にお話を伺いました。

舞台の最も中央に近い位置で演奏することが多いヴィオリストから、このオーケストラはどのように見えているのでしょうか。幾つかの側面から、その魅力に迫ります。



■ ホールでの日々の練習

このオーケストラ固有の音を保持しているとして、同楽団は海外でも高く評価されています。その秘密は、日常的にリハーサルが行われているホール、コンセルトヘボウの特別な響きに隠されているようです。

「オーケストラの音が違うのは、このホールの他にない音があるからです。このホールの音が無かったら、全く違う音になっていたと思います。何十年か前に入団試験に来た時も、自分の音がストレートに行く感じや、他の人の音がオーケストラと一緒にホール全体を響き渡っていく感じが他と違ったのを覚えています」(波木井賢)



■ 歴代の指揮者たち

コンセルトヘボウの舞台には、カラヤンなどの歴史に残る巨匠はもちろん、マーラーなどの作曲家も登場し、同楽団のタクトを振りました。近年の首席指揮者には、ベルナルト・ハイティンク、リッカルド・シャイー、マリス・ヤンソンスなどの名が並びます。同楽団員は、指揮者の音楽へのアプローチの違いを目の当たりにしてきました。

「ハイティンクさんはこのオーケストラにとって大切な人。長く首席を務めましたし、オランダ人で、彼自身このホールで育っているようなものなので、耳がそうできている。最近の練習ではあまり細かいことは言わず、音がまとまるのを待つという感じ。だから皆自然に弾いて、心地よい音ができる」(波木井)

「印象派の音楽などで、ふわーっという雰囲気のある音色が自然にできて、変わっていくようなところなど、勝手にハイティンクさんの音になるという感じがします」(小熊佐絵子)



■ 門外不出の楽譜

1900年代前半、オランダ人指揮者ウィレム・メンゲルベルクは、マーラーと交流しながら同楽団を指揮していたといわれています。その時からのメンゲルベルク自身の鉛筆の書き込みがある楽譜が今も大切に受け継がれており、実際に演奏会で使われることもあります。

「mfと書いてあったけれどやはりfにするなど、細かい変更が色々書き込まれています。作曲家は頭の中にある音をイメージして譜面を書きますが、実際に演奏するとその時のインスピレーションがある。マーラーにもそれが当然あったと思います」(波木井)

写真:ダニエレ・ガッティ(c)Anne Docter

2016年秋からはダニエレ・ガッティが首席指揮者に就任し、マーラーの交響曲を始めとする主要レパートリーに独自の方法論で取り組んでいます。各セクションの配置についても、試行錯誤の最中です。

「ガッティさんは譜面やスコアをすごく読み直していて。皆がずっとやってきたこと、あるいは他の指揮者がやってきたこととは大分違いますね」(波木井)


■ 自然体の音づくり

毎週のように指揮者やソリストが入れ替わり、バッハの次に現代曲のプログラムがあることなども珍しくない同楽団は、幅広いレパートリーに柔軟に対応しています。その音楽づくりは、オランダ名産のチーズづくりに喩えることができるのだとか。

「牛乳を混ぜて、待って待って、あれっと思ったら固まって、チーズになっていて美味しい。古くなると、味が変わったりコクがあったり……。オランダの『いいものができる過程』というのを考えてみると、建築物のようには作っていっていないという感じがしたんですね。僕ら日本人の場合は繊細で、cm、mmの違いを感じますが、この国ではそこにはこだわらない。『自由』が一番大事なのだと感じます。それがいい方向で出た時は、他にない演奏になる。強制的に長いとか短いを合わせるのではなくて、皆自由にその人となりに演奏して、それで合ったら一番いいという考え方です」(波木井)

「自分なりに音楽を作ってみて、だんだん合わせるような。すごくユニークで、精神的にストレスがないと感じています」(小熊)



■ 楽器の選択も自由

使用する楽器や弓、弦についても基本的に制限がなく、曲によってはクラシック・ボウなどで演奏する人もいるそうです。

「毎年、マタイ受難曲の時にはバロック・ボウで弾いている人がいますし、バッハのときには皆で弓を合わせてみないかという話も出ています。強制ではありませんが」(波木井)

特筆すべきは、サポート団体や企業、個人の寄付によって、ストラディヴァリやグァルネリ・デル・ジェス、グランチーノなどの名器が楽団員に貸与されていることです。楽団と支援者との間を取り持つ「RCO財団」があり、現在は「RCOハウス」という新しい練習・演奏会場のオープン準備などにも取り組んでいます。



■ おすすめの座席

舞台を離れてホールの客席にいるとき、楽団員の方たちはどこで演奏を楽しんでいるのでしょうか。お気に入りの座席位置を聞いてみました。

写真:客演のアンドリス・ネルソンス (c)Christina Choushena

「ソロなどがあるときは一階席の評判もよかったですが、初めて来るなら二階がおすすめです。皆がリラックスして弾いているところが見えます」(小熊)

「個人的に好きなのはやはり二階です。オーケストラが一番平均的に聴けるのは、二階の正面ではないかと思います。二階のサイドは舞台に近づくほどよく見えますし、一階の正面辺りもかなり近く見えます。指揮者を見るなら、ステージの裏側の席。すごく臨場感があります。基本的にどこで聴いても、いい音であることはあまり変わらないと思います」(波木井)


■ 今後のプロジェクト

9月14日(金)には新シーズンが開幕となり、同楽団と首席指揮者ガッティ、そしてエフゲニー・キーシン(ピアノ)が オープニング・コンサートに登場します。

さらに、2020年にはマーラー・フェスティバルが控えています。ニューヨーク・フィル、ベルリン・フィル、ウィーン・フィルが招かれ、計4団体のオーケストラがアムステルダムに集う一大イベントです。

筆者が初めて同楽団を聴いた時、弦楽器の肌理細やかな音色の美しさに心打たれ、オーケストラの立体的で迫力のある音に圧倒されたことを覚えています。コンセルトヘボウの特別な音を体感しに、皆様もぜひアムステルダムにおいでください!

 
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 公式HP https://www.concertgebouw.nl/en/

 マーラー・フェスティバルについて https://www.concertgebouw.nl/en/the-mahler-festival

取材・文/安田真子

プロフィール:オランダ在住。音楽ライター、チェロ弾き