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第49回 オランダ流・野外で楽しむコンサート

夏の間、ヨーロッパ各地ではさまざまな屋外のイベントが開かれます。その中には、室内楽やオーケストラの音楽さえコンサートホールではなく屋外で楽しむコンサートやイベントが存在します。
オランダは小国ながら、独自のアイディアで屋外イベントの発展を見せています。今回は、その近況をレポートを交えてお届けします。

太陽に誘われ音楽も外へ

夏が短いオランダでは、太陽光は貴重なものです。少しでも陽が差すと人々はこぞって家から出て、公園や広場、カフェに足を運び、まるで爬虫類のように日光浴をします。

せっかくの天気の良い日には、できるだけ長く外に出ていたいという人が多数派。そのため、ビーチ、オープンカフェは賑わう一方、コンサートのような室内のアクティビティには人気が集まりにくい状態です。
それならば、本来は室内で演奏されるための音楽でも、屋外へ持ち出してしまおう……と考えられた結果、野外でも弦楽器が活躍するような音楽イベントが開かれるようになりました。

オランダでは、特にコロナ禍を乗り越えた後、野外で開かれる音楽イベントの開催数も内容のバリエーションもぐっと増えた印象です。

公園に響くラヴェルとシューマンの室内楽

その代表的なものが、アムステルダムで1998年から毎年開かれている運河音楽祭(Grachtenfastival)です。昨年も同連載にてご紹介しましたが、公園で、運河沿いで、35歳以下の若手音楽家たちが熱演を繰り広げるというもので、今年は8月11日から20日まで開かれました。

最終日を飾る公演は、アムステルダム北西部にあるウェスター公園の大きな広場の特設ステージで行われました。参加は無料で、広場には20代や30代の若者も多く含む300人近くが集まり、芝生の上に寝転んだり、持参したキャンピングチェアーに腰かけたり、タオルを敷いて座ったりしながら、オランダの若手音楽家たちの演奏にじっと耳を傾けました。

まず、今年の運河音楽祭のレジデンス・アーティストであるピアニストのニコラ・メーウセン(Nikola Meeuwsen)が登場し、同音楽祭の期間中に連日の演奏会を経験し、「濃密な日々を過ごした」と語りました。

開放的な空間で演奏されるのは、本格的な室内楽の名曲です。まず、ラヴェルのピアノ三重奏をメーウセン(ピアノ)、ノア・ウィルドシュット(Noa Wildshut)(ヴァイオリン)、アレクサンダー・ワレンベルク(チェロ)が演奏。ワレンベルクは昨年のレジデンス・アーティストで、ヴァイオリンのウィルドシュットも2001年生まれのオランダ国内で随一の注目を浴びている若手演奏家です。

ラヴェルに続き、来年のレジデンス・アーティストが発表され、短い曲が披露されました。最後に演奏されたのは、シューマンのピアノ五重奏曲。メーウセン、ウィルドシュット、ワレンベルクにシン・シハン(ヴァイオリン)、近衞剛(ヴィオラ)が加わり、躍動的で表現が自由に変化する演奏が繰り広げられました。広場の聴衆はリラックスしながら、音響機器を通して聞こえてくる演奏に耳を澄ませます。
リズミカルな箇所では、座ったまま小さく踊りだす年配の女性の姿もありました。人によって音楽の楽しみ方はそれぞれ異なり、屋外ではずっと自由度が高いように感じられます。
演奏中は楽章ごとに拍手が巻き起こり、普段クラシック音楽を聴いていない人も演奏を楽しんでいることが明確に伝わってきました。

あたたかい太陽の光を浴びながら、弦楽器のなめらかな音やピッツィカートの響きに耳を傾ける時間は、なんとも心地よいものです。時折ひんやりした風が吹き、木々の緑が大きく揺れます。野鳥のさえずりと音楽とが混じって聞こえてくるのもとても新鮮でした。自然と音楽がひとつながりに感じられるのも、屋外コンサートの醍醐味です。

オーケストラが街中へ進出

このウェスター公園では、昨年9月にロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のシーズンオープニングを祝うコンサート「オープニング・ナイト」も開かれています。

従来、オープニング・ナイトはコンセルトヘボウの大ホールにドレスやスーツを身に纏った人々が集い、コースディナーの後に演奏会が開かれるというかしこまったものでした。
オープニング・ナイトもコロナ禍を経て、2021年にはアムステルダム中心街のダム広場で、そして昨年には公園でといったように、屋外で開かれるようになったイベントのひとつです。
内容もぐっとカジュアルになり、大勢の人が集まってシーズン開幕を祝います。

今年の9月8日には、今度はアムステルダム北エリアのNDSM Wharfに場所を変え、ジャナンドレア・ノセダ指揮で同管弦楽団がコンサートを開きます。アムステルダム北エリアといえば、アーティストなどがアトリエが構えていて前衛的な雰囲気のある新興住宅街です。「踊りとリズムのエネルギーに満ちた音楽」がラジオやテレビでも放送される予定となっています。

(詳細:https://www.concertgebouworkest.nl/nl/concert/opening-night-2023

野外でオペラ上映の試み

コロナ前から行われていた野外のクラシック音楽イベントももちろんあり、その中にはコンサートだけではなくオペラも含まれます。
アムステルダムにあるオランダ国立オペラハウスは、毎年6月に開かれる舞台芸術フェスティバルのHolland Festival期間中に「Opera in the park」というオペラの野外上映イベントを開いています。

映像を見ると、ピクニックやデート、家族の団欒の時間にごく気軽にオペラを聴きにきた人々の姿が映っていました。飲食も入退場もおしゃべりも自由。野外で楽しむ映画のように、公園に設置された巨大スクリーンを観るために、毎年多くの人々が集まっています。

場所も内容もバリエーション豊かな屋外コンサートには、通常のコンサートホールに足を運ばない層の聴衆が集まります。年齢層ひとつとっても、未就学児からお年寄りまで幅広いのが特徴です。
また、若手音楽家たちの活躍の場を広げることにも大きく貢献しています。

オランダの屋外コンサートはこれからどう変化していくのでしょうか。注目しつづけていきたいと考えています。
Photo : Melle Meivogel
Text : 安田真子
(2016年よりオランダを拠点に活動する音楽ライター。市民オーケストラでチェロを弾いています。)